大規模修繕工事の進め方
STEP 1 建物診断・工事計画
1-1 建物診断で劣化状況を把握する
建物といっても、オフィス・テナント・工場・倉庫・医療や福祉施設・学校など様々ですが、まずは建物や設備の劣化状況を調査するために「建物調査診断」をおこないます。
POINT
劣化箇所や劣化状況は個々の建物の立地や環境、利用状況によって大きく異なりますので、あなたの建物のどこが劣化しているのかをきちんと把握するためにも建物調査診断は必ず実施すべきです。
建物調査診断の一般的な進め方の一例をご紹介します。
1.調査・診断のご相談・お打合せ
2.予備調査(設計図書・これまでの点検資料・修繕履歴および現地の確認など)
3.調査・診断の実施(お打合せ内容によって、目視・触診を主体とする調査や診断機器を用いた計測などを実施)
4.結果のご報告(報告書のご説明など)
1-2 修繕内容検討と基本計画作成
建物調査診断の結果や、既に長期・中期・短期修繕計画がある場合はその内容、また、経営戦略などから大規模修繕工事の方針を定め、どの部分を修繕・改修するかといった内容を検討し、基本計画を決定していきます。
POINT
建物や各種施設の維持保全には、機能の原状回復を目的とした「修繕」と、機能変更や性能向上を目的とした「改修」があります。一般的に大規模修繕工事では原状回復を主としますが、大規模修繕工事のタイミングは建物の資産価値を高める改修工事の検討をする良い機会とも言えます。建物保全の目線および長期的な経営・運用の目線の両方から修繕と改修を検討・計画しましょう。
例:医療・福祉施設等の修繕工事の目安
項目 | 内容 | 修繕周期目安 |
---|---|---|
施設内 | 居室、浴室、 食堂など |
適宜 |
外壁、 屋上・屋根 |
外壁塗装、 屋上防水 |
10~15年 程度 |
空調、 給排水設備 |
空調、給排水管、 受水槽など |
15~20年 程度 |
電気設備 | 照明、給湯器、 厨房機器など |
15~20年 程度 |
防災、 昇降設備 |
スプリンクラー、 エレベーターなど |
25年程度 |
例:医療・福祉施設等の改修工事の検討内容
- ●ユニットケアや個浴対応など充実したケア環境の整備
- ●家族等の団らんおよび宿泊スペースの整備
- ●施設内の快適性向上やプライバシー保護充実のための整備
- ●災害時対応設備導入や環境整備
1-3 資金計画の作成
修繕工事は、偶発的な不具合発生への応急的対応(事後保全)と、劣化状況などをふまえた計画的対応(予防保全)のための資金が必要です。改修工事をおこなう場合にはイニシャルコストも発生します。定期的に劣化状況の調査診断と修繕計画の見直しをおこなうことで、いつ頃にどの程度の資金が必要になるか計画を立てておきましょう。いざ修繕・改修をおこなうときになって資金が大幅に不足している状態では、必要な工事をおこなうことができません。
POINT
- ●修繕・改修のための費用は数百万円~数千万円と高額となるため、あらかじめ積み立てて準備しておくことが基本です。不足する場合などは金融機関から融資を受けることで計画通りの修繕・改修が可能となります。
- ●経営に与えるインパクトも考慮し、イニシャルコスト・ランニングコストの低減や平準化(単年度で全ての工事を完成させるのではなく複数年度に分散して完成させる)を図ることでキャッシュフローを平均化させることもできます。
ヨコソーでは建物調査診断・長期修繕計画の作成も承っております
STEP 2 施工会社選定
2-1 施工会社の選定
基本計画と資金計画をもとに、施工会社に相談をします。大規模修繕工事において施工会社は大きな役割を果たしています。施工会社の品質が修繕に大きな成果・影響をもたらすためです。選定の際はオーナー様にてどのような施工会社に依頼するか基準を設けておくことで、複数企業から提案を受けた場合でも公正な判断がしやすくなります。あなたの建物に最適な施工会社を選定しましょう。
POINT
様々な規模の会社や特徴を持った会社がある中で、いくつか参考となる基準を設けておきます。
例:
- ●大規模修繕工事や改修工事の施工実績
- ●工事に対する考え方・取り組み方針への共感
- ●見積書・提案内容の丁寧さや誠実さ
- ●保証内容・アフターサポートの充実
- ●営業担当・工事担当の対応力や人柄
大規模修繕工事や改修工事の施工実績
これまでどのような規模・種類の建物で大規模修繕工事を施工してきたかなど実績を確認します。特に類似する建物での大規模修繕工事や改修工事の実績が豊富であれば安心感を持てます。
工事に対する考え方・取り組み方針への共感
工事内容のみでなく、工事中における建物利用者や近隣住民・施設に対する安全確保をはじめ、なるべく日常生活に影響が出ないようにするための工事計画や配慮・工夫も大切なポイントです。建物のご利用状況によっては日中の工事ではなく、夜間に工事を実施することで生活への影響を軽減することもあります。
見積書・提案内容の丁寧さや誠実さ
見積書や提案書が項目ごとに整理かつ明確に記載がされており、建物オーナーに対して個別にきちんと説明され、建物オーナーも理解ができる内容のものであることが望ましいです。大事な費用に関することも丁寧かつ誠実に対応してくれる施工会社を選択しましょう。
保証内容・アフターサポートの充実
大規模修繕工事は工事が完了したら終わりではありません。建物を末永く安全・安心に活用していくためには、アフターサポートをきちんと対応してくれる会社か、また、工事に対する保証内容が充実しているかを確認します。
営業担当・工事担当の対応力や人柄
大規模修繕工事は数日で完成するものではなく、数か月間をかけておこなう場合が多いです。また、工事中に建物利用者から様々なお問合せを受けることもあります。工事に対する知識や技術力の高さのみでなく、建物利用者や建物オーナーに対しても誠実かつ柔軟に対応してくれる営業担当・工事担当かどうかもポイントとなります。
2-2 工事請負契約の締結
施工会社が決定したら、工事請負契約を締結します。ここでは契約に必要な書類等についてご紹介します。
1)契約書本文
契約書本文には、基本事項、発注者名、請負者名、工事名称、工事場所、工期、引渡しの時期、請負代金額、請負代金の支払い方法等を明示し、発注者・請負者が記名捺印し、双方が保管します。
2)工事請負契約約款
発注者と請負者がそれぞれの立場で履行すべき事項を定めたもので、契約書には表記されない詳細な事柄について定型的に定められた契約条項を添付します。
3)設計図書
工事代金の基になった設計図書を添付します。ここには、仕様書・設計図だけでなく、現場説明会時に使用した資料や質疑応答書、双方で合意した内容の覚書等もすべて添付しておくべきです。
4)見積書・工事内訳書
契約代金の根拠である見積書・工事内訳書を添付します。
5)工程表
大規模修繕工事の着工から竣工に至るまで、工種毎に明示された日程表を添付します。
STEP 3 竣工~引渡し
3-1 工事説明会・工事着工前の準備
大規模修繕工事を着工する前に、賃貸マンションや福祉施設などでは「工事説明会」を開催します。これは、“住んでいる状態、利用者がいる状態でおこなう”大規模修繕工事には不可欠なことで、工事を円滑におこなうには居住者様や建物利用者様のご協力が必要となるためです。
1)工事説明会の開催
工事の内容に関する様々な事項を施工会社の現場代理人が説明します。特に大切なことは、日常生活に影響を及ぼすような工事(例:様々場所の使用制限、車輛の移動など)に関することや、安全な工事を実施していくことへの対策等に関する内容です。また、居住者様や建物利用者様との相互理解を深めるために質疑応答の時間を設け、疑問点や不安点を解消していきます。
2)工事着工前の準備
工事に関する直接的な準備を別にすると、主に下記のような準備があります。
- ●近隣挨拶
- ●賃貸マンションなど、バルコニーがある場合はバルコニー内の片付け
- ●工事車両や資材置場スペースの確保
- ●防犯対策
- ●ご高齢者や小さなお子様をはじめ、建物を利用されるお客様や従業員などに対する安全対策の確認
- ●工事用掲示板の設置
- ●工事に関するお問合せやご要望等を受け付けるための工事用ポストの設置 など
3-2 着工・工事期間中
着工後はこれまで以上に建物オーナー様と施工会社の間で緊密な連携が必要となります。工事期間中は主に次のようなことをおこないます。
1)定例会議
月に1回程度定例会議を実施します。会議の内容は、工程の確認や変更、施工状態のチェック、建物利用者様からのお問合せやご要望内容の共有、設計変更の必要がでた際の協議、工事中の安全や防犯対策の確認等です。定例会議の内容は必ず議事録を作成します。
2)広報活動
賃貸マンションなどの場合は、工事期間中に施工会社が居住者様へ随時広報活動をおこないます。工事の進捗状況を随時広報することが大切です。特に、居住者様や建物利用者の生活に直接影響を及ぼす内容については事前にチラシの配布や工事用掲示板への掲示等をおこないます。
3)中間検査
建物オーナー様立ち会いのもとで工事の中間検査を実施します。指摘事項があった際は記録に残し、指摘箇所の補修等、適正な処置をおこないます。
4)設計変更と追加工事
大規模修繕工事は、「はじまってみないと分からない要素(隠れた劣化箇所の発見等)」が多くあります。より良い工事をおこなうようにすればするほど、現場での変更はつきものになってきます。設計変更部分については契約内容と異なるため、減額または増額となる場合があり、建物オーナー様に実施の判断をおこなっていただきます。設計変更検討時においては問題が発生する場合があります。施工会社が建物オーナー様へ過剰な追加工事を要求したり、反対に、建物オーナー様から施工会社に過剰なサービス工事を要求することが起きないよう、設計変更の内容は慎重に審議することが必要です。
3-3 竣工引渡し
大規模修繕工事の完了時点にも建物オーナー様としておこなうことがあります。
1)竣工検査
工事完了後の最終的な検査を「竣工検査」といいます。建物オーナー様と施工会社でおこない、不具合部分を発見したときには記録を残して確認し、後日、指摘箇所を処理した後に再度確認します。
2)竣工図書の受取り
大規模修繕工事の内容を記録したものが「竣工図書」です。建物オーナー様にとっては建物の維持管理上で重要な書類となりますので大切に保管してください。
●竣工図書の主な内容
A)施工会社との工事請負契約書
B)工事見積書(内訳書)
C)工事仕様書・施工計画書等
D)工事完了届
E)竣工引き継ぎ書(保証書、竣工図、工事費清算書、工事監理報告書、材料リスト、アフターメンテナンスに関する書面等)
F)竣工写真・工事記録写真
G)広報資料(工事中のチラシ・掲示物等)
3)最終工事代金の審査、確認、支払い
工事費清算書を審査し、その内容を確認・承認して、最終的な支払いをおこないます。追加工事の発生や実数精算方式をとる場合には、契約金額と最終支払い金額は必ずしも一致しません。
4)工事完了の確認
工事が完了したら、建物オーナー様として正式にそのことを確認します。
工事中の影響
大規模修繕工事は「居住空間」と「工事空間」がかさなりあう特殊な工事です。ヨコソーでは日常生活になるべくご負担をかけない工事計画を立案しますが、建物オーナー様や建物ご利用者様からのご理解・ご協力は必須となります。工事に伴う日常生活への影響について、主な内容をご紹介します。
-
足場の仮設
バルコニーの外側には足場が設置されます。安全のため、足場内へは立ち入らないようにお願いいたします。工事中は現場代理人や作業員が足場内を通行します。 -
メッシュシート
足場の外側には塗料・粉塵等の飛散防止のためにメッシュシートを設置します。メッシュシートは外から透けて見え、防犯性に優れた黒色メッシュシートを使用します。メッシュシートで覆われることにより圧迫感や閉塞感は出てしまいますが、黒色メッシュシートは採光・通気性にも優れることから圧迫感・閉塞感を軽減します。 -
テナント等の視認性低下
メッシュシートをかけて建物を覆う場合、入居されているテナント様などの視認性は低下してしまいます。特に飲食店等の場合は視認性低下を懸念されることがありますが、長期的な建物の安全・快適性を向上させるための工事であることをお伝えし、ご理解をいただきます。また、営業中である旨の看板やシートを設置するなどして可能な範囲で営業活動等に影響がでないように工夫します。 -
車両の移動
建物に接している平面駐車場や機械式駐車場の車両を、足場架設期間中および解体期間中、または、足場仮設してから解体するまでの期間、敷地内もしくは外部の仮駐車場へ移動していただく場合があります。機械式駐車場の塗装工事がある場合には、同様に一時的に車両移動をしていただく必要があります。 -
BS・CSアンテナの
取外し、または、
足場への移設足場を設置するにあたり、バルコニー手摺壁などから外部に張り出しているBS・CSアンテナは足場材に接触して破損する可能性があるため、足場架設工事前に取外しをお願いする場合があります。足場架設後もBS・CSをご視聴いただけるよう、足場の外へアンテナを移設することも可能(有償)です。 -
バルコニー・
ルーフバルコニー内の工事賃貸マンションなどでバルコニー・ルーフバルコニーがある建物で工事をする前に、居住者様にてバルコニー内に置かれている荷物(置敷きタイル・人工芝・ウッドデッキ・ラティス・物置・棚等)および植栽等を片付けていただく必要があります。撤去・保管(室内等)・復旧は原則、居住者様にておこなっていただきます。 -
網戸の取外し
賃貸マンションなどでバルコニー内や廊下等の窓サッシ周辺の補修をおこなう際に、窓サッシの外側に設置されている網戸を、汚れ・破損防止のため、居住者様にて一時的に取外しをお願いしています。網戸の取外しが必要となる主な工事は、下地補修工事・シーリング工事・塗装工事・防水工事です。取外しの有無や取外しの必要期間等は工事内容によって異なります。 -
エアコンの使用制限
バルコニー内や廊下内での補修工事・床面防水工事のため、エアコン室外機を仮移動する場合があります。室外機の配管が長ければ配管を外すことなく作業をおこなうことができますが、配管が短い場合や2段式室外機の場合は、配管を取り外す必要があります。配管を取外している期間は、エアコンの使用ができなくなります。 -
臭気の発生
シーリング工事、鉄部塗装工事、バルコニー・廊下・階段床の防水工事などでは臭気が発生いたします。特に溶剤系の材料を使用する場合は強いシンナー臭が発生いたします。臭いが発生する工事の前には事前に工事予定日と換気を促すお知らせもおこない、換気のご協力をお願いしています。 -
外壁下地補修工事等で
発生する騒音・ほこり外壁等の下地補修工事をおこなう際に、電動工具等で外壁タイルやモルタルを斫ったり、補修用の穴をあけたりしますが、これらの作業時にはとても大きな音やほこりが発生します。壁を叩く等、コンクリートに衝撃や振動を与える音は居室内に大きく響くことが避けられませんので、居住者様にご理解をいただきながら工事を進めています。 -
廊下・階段内の工事
廊下・階段内では、下地補修工事・シーリング工事・塗装工事・床防水工事等、様々な工種の工事がおこなわれます。特に影響がある工事は床防水工事で、既存の床シートを張り替える工事では一時的に廊下の通行に制限が生じます。通行を制限する箇所はカラーコーン等で区画をおこない、通行路が分かるように誘導表示をおこないますので、通行のご協力をお願いしています。 -
玄関扉枠の
塗装のための在宅賃貸マンションなどでは、廊下内の鉄部塗装工事で玄関枠(扉)の塗装をおこなう場合があります。外枠~ゴムパッキンの手前までを塗装するために玄関扉を開けて作業をする必要があることから、塗装工事時には居住者様の在宅が必要となります。塗装作業で在宅いただく回数は2~3回(それぞれ半日程度)です。塗装作業日の調整は、居住者様へ「在宅アンケート」を配布して、アンケートの回答結果をもとに調整をおこなっています。
大規模修繕工事の完成は、
末永いパートナー関係のはじまりです
安全・安心な建物を維持していくために重要な大規模修繕工事ですが、高額な費用がかかることから経営や運用への影響も大きくなります。建物オーナー様は長期的な戦略のもと、大きな責任を担いながら準備・工事を進めていかれることと思います。ヨコソーは、建物オーナー様および建物におけるかかりつけ医のような存在となれるよう、工事前・工事中・工事後もサポートしてまいります。